失業等給付とは?手続きが必要になる場面や適切な対処法を紹介

失業給付

ひとくちに失業等給付といっても、給付制度にはさまざまな種類があり、手続き内容や必要種類も制度によって異なります。

従業員の退職時などには必ず手続きを行なうため、正しい手続き方法を理解し、トラブルに発展しないように対応することが重要です。

そこでこの記事では、失業等給付の種類や手続き方法、適切な手続きを行なうためのポイントについて解説します。失業等給付の手続きを控えている方は、ぜひ参考にしてください。

失業等給付の種類は大きく分けて4種類

雇用保険の被保険者だった人に支給される失業等給付は、大きく分けて4種類あります。ここでは、退職した人が受け取れる給付と、退職していない人でも受け取れる給付の2パターンに分けて解説するので、それぞれの給付について理解を深めましょう。

退職した人が受けられる給付制度

職場を退職した人が受けられる失業等給付は、以下の2つです。

  • 求職者給付
  • 就職促進給付

「求職者給付」は、離職した人が安心して就職活動に専念できるよう、再就職までの生活を支援する目的があります。呼び名としては、失業手当のほうが耳にする回数は多いかもしれません。

基本手当を受け取れる日数は、離職理由や雇用保険の加入期間、離職時の年齢などで異なります。特に、会社都合によって離職した人(特定受給資格者)は、再就職の準備が不十分なまま離職するケースがあるため、受け取れる日数が手厚くなるのが特徴です。

他にも、傷病手当や技能習得手当、寄宿手当など、状況に応じてさまざまな給付が設けられています。

「就職促進給付」は、就職活動のモチベーションを上げて、できるだけ早く再就職することを目的とした制度です。この制度には、再就職手当、就業促進定着手当、就業手当などがあり、それぞれの要件を満たすことで受給できます。

退職していない人でも受けられる給付制度

退職していない人でも受けられる給付制度は、以下の2つです。

・ 雇用継続給付
・ 教育訓練給付

「雇用継続給付」は、労働者が長く働き続けられるように支援することを目的とした制度で、育児休業給付介護休業給付高年齢雇用継続給付の3つに分けられます。

育児休業中や介護休業中、会社からは賃金が支給されません。そのため、休業中の労働者が安心して生活できるように整備されたのが、育児休業給付介護休業給付です。

高年齢雇用継続給付は、60歳から65歳までの賃金低下を補う目的で設けられました。これは、60歳以降の賃金が、これまで受け取っていた賃金の70%以下になるケースが多いためです。

「教育訓練給付」は、キャリア形成や能力向上を目的に設けられた制度で、厚生労働省指定の教育訓練を修了すれば、入学料や受講料の一部が支給されます。雇用保険の支給要件を満たしていれば、在職・離職を問わず制度の利用が可能です。

事業主による失業等給付の手続きが必要な場面とは

ここでは、前述した失業等給付のうち、事業主が行なわなければならない手続きについて解説します。

従業員が退職する

退職した従業員が雇用保険の被保険者だった場合、事業主側で被保険者の資格喪失手続きが必要となります。加えて、退職者が失業等給付を受けるためには、離職票交付の手続きを行なわなければなりません。なお、従業員からの要望がない、あるいは再就職先がすでに決定している場合は、離職票交付の手続きは不要で、資格喪失手続きのみ行ないます。

ただし、退職する従業員が59歳以上の場合は、従業員からの要望がなくても離職票交付の手続きを行なう必要があることに注意しましょう。

失業等給付に関する手続きでは、提出しなければならない書類が多数あります。不備があると手続きが滞ってしまうため、事前に必要書類や手続きの流れを確認しておくことが大切です。

従業員から雇用継続給付の申請を受けた

従業員から育児休業給付・介護休業給付・高年齢雇用継続給付など、雇用継続給付の希望があった場合は、事業主が所定の手続きを行ないます。なお、育児休業給付と介護休業給付は職場への復帰が前提のため、休業中に退職予定の場合などは給付を受けられないことに注意が必要です。

高年齢雇用継続給付に関する手続きは、「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」に分けられます。それぞれの手続き内容は異なるため、制度の概要を理解しておくことが重要です。

雇用継続給付の支給申請は、原則事業主が行なうことになっています。やむを得ない理由がある場合、または被保険者本人が自身で手続きを行なうことを希望する場合には、被保険者本人が申請することも可能です。

【状況別】失業等給付に関する具体的な手続き内容

失業等給付の手続きを行なう際は、手順や必要書類を適切に把握し、滞りなく進めることが大切です。ここでは、従業員の退職時と、雇用継続給付を受ける際の手続きに分けて解説します。

従業員の退職時における手続き内容

従業員が退職する際は、以下の手順で失業等給付に関する手続きを進めていきます。

Step1. 退職届を提出してもらう
Step2. 退職証明書が必要か確認する
Step3. 雇用保険被保険者資格喪失届、雇用保険被保険者離職証明書を管轄のハローワークに提出
Step4. ハローワークが発行した離職票を退職者に送付

退職届は法的効力のある書類で、退職金の支給や失業等給付に関わる重要な書類の一つです。しっかりと書面に残しておくことで、トラブル防止にも役立ちます。

退職証明書は、退職者の置かれている状況によって、必要か不要かは異なるでしょう。手続きをスムーズに行ないたい場合は、申し出を待つよりも企業側から確認すると効率的です。

雇用保険被保険者資格喪失届・雇用保険被保険者離職証明書は、従業員が退職した翌々日から10日以内に、ハローワークへ提出しなければなりません。日数に余裕があると考えず、速やかに提出しましょう。

離職票を渡すのが遅れてしまうと退職者が困ってしまうため、迅速に届けることが大切です。離職票を希望した退職者に渡さなかった場合は、雇用保険法違反となるため適切に対応しましょう。

上記手続きにおいて、雇用保険被保険者離職証明書を提出する際は、賃金台帳や出勤簿、退職届などを添付しなければなりません。不備があると手続きが滞るほか、それが原因でトラブルにつながることもあるため注意が必要です。

雇用継続給付における手続き内容

雇用継続給付の手続きを行なう際は、給付制度ごとに定められた提出書類や添付書類が多いため、不備のないように準備を進めることが大切です。

【育児休業給付】

提出書類・休業開始時賃金月額証明書
・育児休業給付受給資格確認票
・(初回)育児休業給付金支給申請書
添付書類・賃金台帳や出勤簿など(支給申請書の記載内容を確認できる書類)
・親子手帳

初回の手続き以降は、原則2ヵ月に1回支給申請を行なう必要があるため、忘れずに手続きを行ないましょう。

【高年齢雇用継続基本給付】

提出書類・高年齢雇用継続給付受給資格確認票
・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書
添付書類・雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書
・賃金台帳や出勤簿など(支給申請書の記載内容を確認できる書類) 

【高年齢再就職給付】

提出書類【受給資格確認時】
・ 高年齢雇用継続給付受給資格確認票
・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書払渡希望金融機関指定届
【支給申請時】
・高年齢雇用継続給付支給申請書
添付書類【支給申請時のみ】
・賃金台帳や出勤簿など(支給申請書の記載内容を確認できる書類)

高年齢雇用継続給付の手続きも、原則2ヵ月に1回支給申請を行ないますが、2回目以降は指定された申請月に手続きしなければなりません。また、高年齢再就職給付の受給資格の確認は、雇用した日から速やかに行ないましょう。

【介護休業給付】

提出書類・休業開始時賃金月額証明書
・介護休業給付金支給申請書
添付書類・被保険者が事業主に提出した介護休業申出書
・住民票記載事項証明書など
(介護対象家族の氏名、性別、生年月日、被保険者本人との続柄などが確認できる書類)
・出勤簿、タイムカードなど
(介護休業期間中の休業日数の実績、介護休業の開始日、終了日が確認できる書類)
・賃金台帳など
(介護休業期間中に介護休業期間を対象として支払われた賃金が確認できる書類)

介護休業給付金の受給申請は、介護休業終了日の翌日から起算して2ヵ月経過した月の末日までに行なわなければなりません。受給できないといったトラブルにつながらないよう、期日を確認しておきましょう。

雇用継続給付の手続きを行なう際は、事業者管轄のハローワークに必要書類を提出します。不備があった場合は手続きが滞るため、確認漏れのないように注意してください。

失業等給付手続きで起こりうるトラブル

失業等給付手続きで起こりうるトラブル

失業等給付の手続きは、少しのミスや制度の勘違いで大きなトラブルに発展しかねません。トラブルを予防するためには、起こりうるトラブルへの理解と対策が不可欠です。トラブルに発展する原因を踏まえ、注意すべきポイントを確認しておきましょう。

手続きにミスが生じる

退職者が失業等給付を受給する場合、離職票が必要な旨を労務管理の担当者に伝えるでしょう。しかし、労務管理の担当者が複数いる場合、適切に情報共有ができず、手続き漏れが生じるおそれがあります。また、業務を兼務している場合は、多忙のため手続きミスが起こるかもしれません。

退職者によって、離職票の要不要は変わります。そのため、離職票については、一人ひとりにしっかり確認することが重要です。確認の行き違いが生じる可能性を考慮すれば、確認していなかったとしても発行しておくのが賢明といえるでしょう。

双方が主張する離職理由に相違がある

離職理由に相違があった場合、労使双方に影響があることをご存じでしょうか。従業員の場合は失業等給付、企業側は助成金申請に影響があることを理解しておかなければなりません。具体的に、どのような影響があるのかを解説します。

自己都合退職と会社都合退職では失業保険の受給条件が異なる

自己都合退職と会社都合退職では、失業等給付を受給できる期間や開始されるタイミングが異なります。例えば、自己都合退職の場合、受給を受けるためには待機期間7日、さらに給付制限2ヵ月が経過するのを待たなければなりません。しかし、会社都合退職の場合は、待機期間7日間が経過すれば受給可能です。

労使双方の主張内容に相違がある場合は、ハローワークで協議を行ない、企業への調査が行なわれます。双方が納得して手続きを進めるためには、制度に対する正しい認識のもとで、退職者本人と話し合うことが大切です。

会社都合退職は助成金を受ける際の条件に影響する

民間企業の大きな支えとなる助成金制度は、どの企業でも受けられるわけではありません。助成金制度を利用するためには一定の条件を満たす必要があり、そのうちの一つに「6ヵ月以内に会社(事業主)都合退職を行なっていない」といった内容があります。

勘違いしやすい例として、退職勧奨が挙げられます。退職勧奨の場合、退職に至るまでの過程によって離職理由の扱いが異なるためです。そのため、労使双方が制度を正しく認識していなければ、トラブルに発展する可能性があるでしょう。

助成金を受給したい、しかし解雇も必要という状況になった場合は、助成金申請のタイミングをずらすなど、対策を講じるのが有効です。

失業等給付に関する手続きを適切に行なうためのポイント

失業等給付の手続きを適切に行なうためには、どのようなことに注意する必要があるのでしょうか。ここでは、手続きを行なう際のポイントについて解説します。

退職者と会社側で情報共有できるように対応する

前述のような労使間トラブルが起こる原因として挙げられるのは、退職者とのコミュニケーション不足です。業務もあるなかで話し合いの時間を割くのは難しいかもしれませんが、密にコミュニケーションを取れば離職理由の相違などを防げる可能性が高まります。

例えば、従業員の退職理由が、病気や介護などの「正当な理由のある自己都合離職」だったとしましょう。しかし、手続きを進めたら「正当な理由のない自己都合離職」になり、失業等給付の支給条件が変わってしまったとなれば、退職者が納得できないのも頷けます。

このような状況を生まないためには、問題を解消できる環境を整え、手続き前に情報の共有を徹底することが大切です。

煩雑な作業は専門家に依頼する

失業等給付に関する手続きは、用意しなければならない書類が多いだけでなく、記入項目も多いのが特徴です。特に入退社の多い時期には、人数分の手続きを行なう必要があるため、業務負荷や手続きミスにつながりやすいでしょう。

労務管理のプロである社労士に手続きを依頼すれば、煩雑な手続きを適切に行なえるため、手続きミスや漏れを解消できます。

また、社労士が手続きを行なうと、専門家の確認や審査が済んでいることの証明になるため、添付書類の省略が可能です。適切に手続きを済ませたい場合は、専門家への依頼を検討しましょう。

まとめ

失業等給付の手続きは、従業員が退職する際や、雇用継続給付の申請を受けた際に行ないます。給付の種類によって必要書類や手続き内容は異なるため、手続きの際は詳細を確認しておくことが重要です。

失業等給付の手続きは煩雑で、手続きにミスが生じたり、手続き漏れが発覚したりと、給付までの工程がスムーズに進まないことが考えられます。

労使間トラブルを防ぐことを優先的に考え、労務管理の専門家である社労士への依頼を検討してみてはいかがでしょうか。