65歳以上も雇用保険は適用される?
65歳以上の従業員も雇用保険の適用対象となったことや、複数の事業所に勤務することで要件を満たすと雇用保険適用が可能に…
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従業員一人ひとりの能力や成果を評価して給与額を決める「年俸制」は、企業にとっても従業員にとっても魅力的な要素が多い制度です。そのため、積極的に制度の移行を検討している企業も多いのではないでしょうか。
しかし、現状では月給制の企業が多いことや、月給制との明確な違いを把握しきれていないことが、導入に一歩踏み出せない原因になっているかもしれません。
年俸制の運用のためには、従業員に対する評価基準や各種手当などの扱い方に理解を深めると、自社に適した制度を整えられるでしょう。
この記事では、年俸制における一般的な評価基準やメリット・デメリット、各種手当の扱いについて解説します。給与制度の移行を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
年俸制を導入する際は、制度への理解を深めることが大切です。ここでは、年俸制の概要や評価基準、採用している企業や職種の特徴などを紹介します。
◇年俸制とは年単位で給与の総額を決定する賃金制度
年俸制を採用している企業の多くは、前年度の能力や成果をもとに、従業員に支払う給与を年単位で算出します。支払われる給与額は、あらかじめ設けられた賃金規程や計算式に則って算出されるのが一般的です。
基本的には、企業側が算出した給与額を従業員に提示し、双方が合意することで最終決定に至ります。計算方法や支払われる金額は当事者間で自由に決められますが、労働基準法などに反することがあってはなりません。
状況によっては、従業員の合意を得ずに決定するケースもあります。これは決定内容が公正で、就業規則に不服申し立て手続きや評価基準などが明示されている場合にのみ認められます。
年俸制を採用する場合は、従業員の何を評価するべきか基準を設け、公平に評価できる体制を整える必要があります。一般的に設けられる人事評価のポイントは、以下の3つです。
評価する際は、協調性や規律性だけでなく、持っている能力が業務に対して適切に発揮されているのか見極めることが重要です。また、従業員一人ひとりの目標と業績をしっかり管理できる体制を整え、正確な達成度合を測る必要があります。
公正に評価するためには、仕事に関係のない行動を評価に含めず、評価項目それぞれの範囲や期間を区切ることがポイントです。行動評価を明確にすれば、評価される従業員も納得のいく評価システムを実現できるでしょう。
日本では終身雇用制度が浸透しているため、入社して間もないうちに先輩や上司より早く出世するのは難しいでしょう。しかし、成果主義が浸透している海外では、年俸制を採用するのが一般的です。そのため、外資系企業でも、年俸制が適用されているケースが多くあります。
日系企業の場合は、管理職や役員など、地位の高い人に年俸制を適用されるケースが多いでしょう。このほかには、プログラマーやシステムエンジニアなど、専門職に従事している人にも適用される傾向にあります。
なお、一定額以上の年収があり、高度な専門知識を有する人は、高度プロフェッショナル制度の対象です。高度プロフェッショナル制度の対象者には、成果主義と親和性の高い職種が多いことから、今後年俸制が適用されるケースが増えると予想されています。
年俸制は一見、合理的かつ魅力的な制度に思えますが、状況によってはデメリットになる要素があると理解しておくことも大切です。ここでは、年俸制におけるメリットやデメリットを解説します。
月給制の給与システムの場合、成果や業績によって毎月の給与額が変動する可能性があります。それに対し、年俸制は1年間の給与額を決定するため、人件費の見通しや経営計画が立てやすくなるでしょう。
また、年齢や入社年数ではなく成果を評価すれば、従業員の業務に対するモチベーションを上げることにもなります。従業員のモチベーションが上がれば、生産性や業績のアップも期待されるため、労使双方にメリットのある制度といえるでしょう。
成果主義での評価を適切に行なうには、目標管理制度を採用し、従業員自身に目標を設定してもらうのが有効です。目標管理制度を整備すると、従業員の適性や役割を明確にできるほか、組織への参画意欲を育てる効果も期待されます。
年俸制を導入している企業では、年度はじめに給与総額を決定します。たとえ、その後に業績が悪化したり想定していた成果が得られなかったりしても、すでに決定している給与額を変更することは原則として不可能です。そのため、金額を決める際は、企業の損失につながらないように設定しなければなりません。
また、成果主義の環境では、成果を上げることへのプレッシャーから、目先の成果や個人の成果に比重が置かれることがあります。短期的な視点での業務に偏ってしまい、中長期的な貢献を期待できない可能性があるため、自社に適した評価制度の整備が重要です。
評価基準に不明瞭な部分があると、従業員に不満や不信感を抱かせることになりかねません。労使間のトラブルにつながらないよう、評価基準なども就業規則に明記し、従業員に周知しましょう。
年俸制を採用した場合、ボーナスや残業代はどのように扱うかご存じでしょうか。ここでは、さまざまな手当の扱い方について解説します。
ボーナス(賞与)を支給するかどうかは企業の任意であり、年俸制の導入に関係なく自由に決められます。ボーナスを支給する際は、年俸額にボーナスを含めて支給するか、年俸額に含めず別途支給するかの2パターンです。
ボーナスを年俸額に含める場合は、年俸額を14分割または16分割した金額を毎月支給し、残りの金額をボーナスとして年2回に分けて支給するのが一般的です。なお、この方法で支給する場合は、事前に金額が確定していること・定期的に支給されることから、労働基準法上ではボーナスという扱いにはなりません。
ボーナスを年俸額に含めず支給する場合は、あらかじめ定めた年俸額を12分割して毎月支給し、業績などに応じてボーナスを追加で支払います。つまり、従業員が1年間で受け取る総額は、年俸額にボーナスを追加した金額です。
労働基準法では、法定労働時間である1日8時間、1週間で40時間を超えて働いた従業員に対し、残業代を支払うことが義務付けられています。そのため、年俸制を導入し、年間に支給される給与額がすでに決定しているとしても、残業代を追加で支払うことが必要です。
ただし、次のようなケースでは、残業代を支払う必要はありません。
・固定残業制で設定された時間を超過していない場合
・残業の概念がない裁量労働制の場合
・該当の従業員が労務管理などの監督を行なう管理監督者の場合
・該当の従業員が秘書などの機密事務取扱者の場合
労働者に対する賃金は全額支払うことが労働基準法で定められ、これは月給制だけでなく、年俸制の場合も同様です。ただし、労働者自身の都合で欠勤する場合は、当事者が賃金を支払うか否かを決められます。
欠勤控除は、就業規則に基づいて算出されます。そのため、年俸制の導入にあたり欠勤分を控除することを検討している場合は、欠勤控除の算出方法をきちんと策定しましょう。
年俸制で給与を支払う際は、年俸を12分割する「均等割」と、14分割または16分割する「ボーナス払い」が一般的です。社会保険料は標準報酬月額に基づいて算出するため、社会保険料は均等割のほうが安くなります。
従業員にとって、支払う金額が安く済むのは良いことに思えますが、将来受け取る年金額に影響をおよぼすことも考えると、一概に良いとはいえません。そのため、従業員が均等割かボーナス払いかを選択できる場合、均等割では受け取れる金額が減ることを伝えておくとよいでしょう。税金に関しても、ボーナス払いよりも均等割のほうが安くなります。
たとえ均等割を選んだとしても、給与の総額や居住地によって保険料や税金額は異なります。年俸額が増えた際に戸惑わないよう、その点も従業員に説明しておくのが賢明です。
福利厚生には、法律によって企業に義務付けられた「法定福利厚生」と、企業が任意で設定できる「法定外福利厚生」があります。前述した社会保険は法定福利厚生に分類されるため、企業に勤めたら必ず加入しなければなりません。
法定外福利厚生は、企業独自の制度を導入できるほか、そもそも支給すべきか否か、対象者の範囲はどうするかなど、自社に適した内容に設定が可能です。適切に支給するためにも、賃金規程や就業規則に要件などを明記しておきましょう。
なお、資格手当や役職手当など、特定の人を対象に支給されるものは、年俸に含めるのが一般的です。対象者には、その旨も説明したうえで年俸額を決定しましょう。
月給制から年俸制に切り替える前に、中途採用や退職などの対処法を把握しておかなければなりません。ここでは、中途採用や退職における適切な対応について解説します。
通常、年俸制で給与を支給する際は、前年度の能力や成果に基づいて評価します。しかし、中途入社の社員には自社での実績がないため、どのように支払うのかを決めなければなりません。
中途入社に対する年俸の決め方は企業によって異なりますが、以下のような決定方法が考えられます。
年度の途中で入社した従業員の場合は年俸額を12で割り、在籍期間分の金額を支給します。そのため、中途入社の従業員が通常どおりの年俸を受け取れるのは、翌年度からになることを伝えておきましょう。
年俸制の従業員が1年の途中で退職した場合は、働いた期間の給与のみを支払います。年俸にボーナスが含まれていた場合、割当分は支払わなければなりませんが、契約書に「支給日以前に退職した場合は支給しない」旨を記載していれば、支払う必要はありません。
また、自己都合による退職者の残存分は、支払わなくても良いことになっています。ただし、企業側の事情で解雇した場合、従業員から残存分の給与を請求される可能性があることを把握しておきましょう。
たとえ企業側の都合で解雇に至ったとしても、就業規則に残存分は支払わない旨を記載していれば、支払い義務は発生しません。リスク回避のためにも、残存分の支払いについては就業規則で定めておくとよいでしょう。
年俸制への理解が深まったところで、導入する際の注意点も確認しておきましょう。
◇就業規則の改定と労使間での合意は必須
労働基準法第89条では、賃金の決定方法などを就業規則に定めることが義務付けられています。そのため、年俸制を導入の際には就業規則の賃金規程を改め、労働基準監督署に届け出なければなりません。
就業規則を作成・変更する際は、従業員の過半数を代表する人の意見を聴くこと、変更後の就業規則を周知することが必要です。従業員の合意なしに年俸額を決定できる決まりはありますが、就業規則が明示され、公正な決定内容の場合に限られることを念頭に置いておきましょう。
以上のことから、就業規則の改定および労使間での合意は必須であり、合意がなければ年俸制の導入は実現しないと考えておく必要があります。
◇労働条件の不利益変更に対する理解を深める
これまで、年功序列制度を採用してきた企業が年俸制に切り替えると、支給される給与額が減ってしまう人もいるでしょう。このように、従業員にとって不利益になるような変更は、同意がない限り原則できません。
年俸制への変更が不利益変更で無効にならないようにするためには、特定の労働者のみが不利益を被るような仕組みを作らないことが大切です。
ただし、以下の要素を考慮して、就業規則の変更が合理的と判断できる場合は、有効な変更と認められるケースがあります。
また、完全に制度を移行するまでは、猶予期間を設ける、あるいは手当を支給するなどの経過措置を講じましょう。
年俸制は年齢や入社年数に関係なく、一人ひとりの能力や成果によって1年の給与額が決定する制度です。従業員のモチベーションや業績のアップが期待されることから、労使双方にとって魅力的な制度といえるでしょう。
ただし、公正な評価を行なわなければ運用するのは難しく、適切に就業規則を改定することや、不利益変更への対応策を講じることにも注力する必要があります。
労働基準法や労働契約法を理解していなければ、制度の導入は難しいでしょう。労使間トラブルを生じさせないためにも、年俸制に切り替える際には、労務管理の専門家に相談することを検討してみてはいかがでしょうか。